ブンナよ、木からおりてこい─混声合唱とピアノのための

【テキスト】
原作■水上 勉 構成■静岡混声合唱団TERRA

カエル1「ブンナ、なにをそんなに真剣に見上げているんだ」
カエル2「まさか、おまえさん、空を飛びたくなったのではあるまいね」

1.ブンナの冒険
ブンナ!!
おまえさんは トノサマがえるの ブンナ
空はとべないが 雨がえるみたいに
とぶのがとくい

(ブンナ)「ひまさえあれば技をみがいていたからね」

ブンナ!!
おまえさんは 木登りじょうずの ブンナ
いちばんこわいへびを
木のうえから見張ってくれる

(ブンナ)「木登りのコツはね、あまり下をみないこと
無心にのぼることが大切さ」

鳥のように空をとべたら、ひろい世界がみえるだろうな

ブンナ!!
おまえさんは トノサマがえるの ブンナ
空はとべないが 雨がえるみたいに
とぶのがとくい

(ブンナ)「椎の木のてっぺんは陽当たりのいい、とてもよいところ。
蛇も鼠もこないところさ」

ブンナ!!
おまえさんは 冒険好きの ブンナ
椎の木のてっぺんで
見知らぬ世界を ながめるのだ

2.椎の木のてっぺんで
雲が出て 陽がかくれると、
寺のかわらは黒みをまして、
そのむこうのたんぼも、色がかわり
だが、東京へ通じる白い道はくっきりとういて、
ひかる自動車もかわらない

(百舌)
あけがた、ね起きにおれはやられたんだ
ねぼけてさえいなければ、
こんな目には あわなかったんだ

(雀)
わたしは まだ 生きていたい、
巣へ帰って、この冬を精いっぱい生きて
春がきたらヒナをかえしたいのに

(鼠)
おれは、水をのんでたんだ
ゴクゴクやっているところを、
鳶のヤツが空からみていて
さっとおりてきやがった

この世は、強いヤツが弱いヤツを喰って生きてる。
それが鉄則だ。
そのほかのことは みな いいかげんなごまかしだ。

生きとし生けるもの
すべて太陽のもとにあって
平等に生きている

(囚われの動物たち)
■ああっ来やがった、くそ、■あたしじゃないよ
■生きたいよ いやだいやだ■おい!順番にしてくれ
■俺は今さっき来たばかりだ■おれじゃあねえ
■こいつが先からきてんだ■先にこいつをつれていけ
■助けてくれ たすかりたいよ■たすけてー たすけてー
■たすけてよ たすけてよ■私のほうが後から来たのよ

3.鼠が最期に言ったこと
(鼠)「…あいつより、俺のほうが、生きていたかった…
  生きて、みんなのもとへ帰りたかった… 」

「みんな死ぬときはいっしょ。土になりにゆくんだよ。
その土になる途中で…

かえるくん、おれのからだから、虫が出てくる
その虫は、やがて羽がはえて
空へとび立ってゆくだろう

きみは、それをくって、元気なからだになりたまえ
そうして、おれの代わりに
この木をおりるんだ

かえるくん、遠慮せずに、おれをたらふくくいたまえ
みんなだれかの生まれかわり
きみは、ぼくになるんだから……」

4.つぐみの歌
鼠さん、鼠さん、どうして、こんなところで死んでいるの。
仲間はどうしたの。
どうして、こんなところにひとりぼっちでいるの…

(つぐみ)「かわいそうな…鼠さん」

シベリアのおかあさん。わたしは、日本のお寺の、
椎の木にきて、もう動かない鼠さんといっしょにいます。
おかあさん……わたしは一生懸命空をとんで、
海をわたってきました。
ひろいひろい海をわたってきて

おかあさんのおしえたとおり、ほそ枝をくわえて
この海をとんできました。
おかあさん、わたしは、日本のお寺の、椎の木にきて、
死んだ鼠さんといっしょにいて

(つぐみ)「まだ帰る日がこないのに、こんなところで…
かなしいけれど、でも平気」

おかあさん、あなたが木の実をついばんで、
海ぎわの岩に落とした種子は、大きな木になって
あかい実が、ことしも鈴なり、
岩も、木も、波をかぶってぬれてましたよ。

(つぐみ)「おかあさん、わたしは、いいつけを守って、
木の実をたべて日本の山野にまきました。
まいにち、まいにち、岩の上の、
おかあさんの木の実をついばんで、種子をまきました。
やがて、わたしのまいた種子は、日本じゅうに芽をだしましょう。
おかあさんのいったとおり……
おかあさん、そこにいるの?」

おかあさん……待っててね。

風の音

5.水ぬるむ五月
水ぬるむ五月がきたよ

(ブンナ)
「ぼくら、かえるは、みんななにかの生まれかわりなんだ。
それがよくわかった。ぼくは鼠さんの生まれかわりだよ。
自分は自分だけと思ってたけど、自分のいのちというもの
は、だれかのおかげで生きてこれたんだ……地上にとんで
いる小さな虫や羽虫は、みな鼠やへびや牛がえるの生まれ
かわり。それをくって生きるぼくらは、敵だと思っている
へびや鼠をくっていることになるんだ。ぼくらのいのちは、
大ぜいのいのちの一つだ……だから、だれでも尊いんだ。
つらくても、かなしくても、生きて、大ぜいのいのちの
か けはしになるんだ……」

水ぬるむ五月がきたよ
今日も生まれる新しいいのち

ぼくらの いのちは だれかの生まれかわり
よわくても はかなくても
みんな、あらたなひとついのち

さあ、うたおう、うたおうよ
生きてるものは みんな いのちのかけはし
さあ、うたおう、うたおうよ
あすにむかって、つよくはばたけ
 

さあ、手をつなげ、そろってうたおう
あらたな世界のために
さあ、手をつなげ、そろってうたおう、
ぼくらの歌