bunnah
創作曲のできるまで
「ブンナ」を創る

第13回 山鳥のほろほろと鳴く声聞けば─或いは、陰の物語

猫である。 現在の名前はこちらだ。
竹垣が破れた家へ這入りこんで、そこを住家[すみか]と決めた。
この家の主人は何といって人に勝れて出来る事もないが、
何にでもよく口を出したがる。
いつぞやは奈良時代の坊さんの歌に次のような理屈をつけた。

山鳥のほろほろと鳴く声聞けば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ 行基

これは輪廻転生の古代仏教思想を背景に持つ歌であるが、
この歌はブンナの冒険に隠されたもうひとつの物語へと
われわれを導く。
それは、孤児ブンナが亡き両親と“再会”する物語である。

ブンナの両親といっても
トノサマガエルのまま再会できるのではない。
転生した果ての両親がブンナの目の前に出現するのだ。

もう長くはない俺を食って生き延びろと
ブンナに言うネズミが
転生した「父」である。
母鳥の言いつけを守って木の実を蒔き終えたから
死んでも平気と言うツグミは
転生した「母」の娘である。

ブンナに多くを遺す間もなく天敵に食われた父母は、
或いは鳶に痛めつけられたネズミに化身して、
或いはシベリアから飛んで来た捕らわれのツグミに託して、
生きることの極意を、その一端を、伝えようとした。

思えば成長とは親たちの「生」の追体験であろう。
子を観ることは己の追走者を振り返るのにも似よう。
だから親たちにはガッカリなのであり、
子らを黙って見ちゃおれんのだ。
ついでに美しくない老年にも幻滅である…云々

かくの如き次第で、勝手な理屈を述べ立てて倦むところがない。
小便にでも行くとしよう。




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