bunnah
創作曲のできるまで
「ブンナ」を創る

第4回 作曲家登場1

僕は猫だ。名前はまだない。
どこで生まれたかまったく見当がつかぬ。
薄暗いじめじめしたところでニャーニャー泣いていた
それだけは憶えている…

ごめん。ありがちな自己紹介で。

もちろん、僕は作曲家ではない。
連載第3回に出てきた記憶を呼び覚ました「ある団員」
とは僕の主人のことである。
彼は最近なぜか猫好きになった。
或いは、猫好きのふりをしているだけかもしれぬ。

ある晩のこと、
指揮者ヒロシや運営委員長たちと話をしていて、
こんな話題になったのだそうだ。
─若い作曲家を知らないか?
TERRAの創立20周年記念創作曲については、
委嘱ではなく作曲家との共同作業にしたい。
それには大家よりも若い人こそ相応しい…

その日の朝に恩師から電子メールが届いていなければ、
恩師の姪にあたるそのひとのことを
僕の主人は思い出さなかったに違いない。

連絡をとってみると、彼女は上野の作曲科に通っていて、
ちょうど卒業制作の曲を仕上げたばかりだ、と判明した。

名前を根岸圭(ねぎし けい)さんと云う。

風が強い春の日、上野恩賜公園で初めて圭さんに会った。
TERRAからは主人を含めて3人が出向いた。

折しも仏蘭西浪漫派の巨匠ドラクロア氏の絵画展開催中である。
平日というのに大変な人出だ。
彼らは、オウプンキャフェの片隅にやっとのことで席を見つけ、
楽譜や資料が風に吹き飛ばされやしないかと気にしつつ、
テーブルの上にそれらを並べた。

圭さんの諸作品に目を通してみると
どれも正しく「現代音楽」そのもので
TERRAの3人はおおいに戸惑ったのである。(つづく)



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